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ピアノとピアノの音を被災地に。「Smile Piano 500」

活動の報告

2018.11.08

ピアノを届けに 〜岩手県釜石市

11月8日、西村とスタッフは56台目のスマイルピアノをお届けするために、岩手県釜石市へ向かいました。

ピアノを楽しみに待っているご家族の新居は、新たに作られた住宅地にあるので、カーナビに目的地として設定しても、ルートが表示されません。
山道を走り続け、「たぶん、あと1キロメートルくらい先にあるはず……」と思い始めたちょうどそのときに、住宅が建ち並ぶ一画が、ぱっと視界に飛び込んできました。
どの家も新しくて、建築中の家もたくさんありました。
西村とスタッフは、車をノロノロと走らせながら、1軒ずつ表札を見て、お届け先を探しました。

ご家族全員(お父さん、お母さん、3人のお子さん)がすでに外で待っていてくださり西村とスタッフを温かく迎えてくださいました。
ご自宅の2階に運び入れるためのクレーンも到着していたので、早速搬入開始です。
ロープをぐるりと巻いたアップライトピアノが、大きなクレーンに吊られて高く上がっていくと、皆さんから「わーっ、すごい!」という声があがりました。
ベランダからピアノを家の中に入れるのですが、これがなかなか大変!
お子さんたちは、とても真剣に、少し心配そうに、クレーンの動きを見つめていました。


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このピアノを譲ってくださったのは、青森でヘアメイクのお仕事をするマイさんです。
以前、西村が青森でテレビ出演したとき、お世話になりました。
番組で西村が「スマイルピアノ500」の活動について話しているのを聞いて、収録後に「うちにもピアノがあるんですけど……」と、提供を申し出てくださったのです。
昭和43年製の、とても丁寧に作られた良いピアノでした。
マイさんとご家族の皆さんに、心からお礼を申しあげます。

こうしてマイさんから譲りうけたスマイルピアノは、皆さんが見守るなか、無事にベランダの窓を通り抜けて、2階の踊り場に置かれました。
この瞬間、思わず全員が拍手。
ところが驚いたことに、ほどなくして雨が(しかもかなり本格的に!)降り始めたのです。またしても天気の神様が味方してくださったようです。
ありがたいと思いました。

3人のお子さんは、ピアノを弾くことが大好きです。
上のお兄ちゃん(中3)は、ショパンの「ノクターン」や「ディア・ハンター」のテーマなど、優しくて美しい曲が好き。
下のお兄ちゃん(中1)は、テンポの速い疾走感のある曲が好みです。
いちばん下の女の子(小1)は、3年ほど前からグループレッスンでピアノを習い始め、今は個人レッスンも受けているそうです。
全員がピアノを弾くようになったのは、ご自身も子どもの頃にピアノを習っていたという、お母さんの影響でしょうか。
「3人とも、お腹にいるときにピアノを聴かせていたからかもしれません」と話していました。
つわりのとき、ピアノに向かうと心が和んだそうです。
「それは私の母と同じです!」と西村が伝えると、とても喜んでくださいました。

ご一家は、今年の夏まで7年間、仮設住宅で暮らしていました。

新築だったご自宅が津波で流され、ピアノも失いました。
いちばん下の女の子は、震災の1ヵ月前に生まれたので、赤ちゃんのときから仮設住宅で育ちました。
釜石市は復興に時間がかかったため、嵩上げ工事がようやく完了した今年の春に、住宅の再建が始まったそうです。
わかめ漁をしていたお父さんは、震災後はしばらく、農家の手伝いをしていました。
田植えや枝豆づくり、米の収穫など、漁とはまるで勝手が違う仕事に慣れるまで、さぞかしご苦労が多かったと思います。
でも、「初めてのことばかりだったけど、勉強になりました」と、明るく話していました。
2012年に漁業を再開しましたが、網などの道具は仲間の皆さんと共同で使っていたそうです。
仮設住宅で、子どもたちは小さな卓上キーボードと電子ピアノで、近隣の迷惑にならないように気を遣いながら練習していました。
音を出すときは、外に漏れないように、とても小さな音量にして弾きました。
「新しい家が完成したら、ちゃんとしたピアノで弾かせてあげたい」と、お父さんは思っていました。
インターネットで検索して、スマイルピアノを見つけてくださったのです。

搬入を終えたピアノを調律してくださったのは、いつもお世話になっている小野寺さんです。
いちばん上のお兄ちゃんは、小野寺さんが調律を進める様子を、食い入るように見ていました。
「音が透明になっていくのがわかる」と言うのです。
音に対して、とても敏感ですね。
弾き初めで弾いてくれたショパンの「ノクターン」、透明感のある音色で美しく響いていました。
下のお兄ちゃんは、最初は恥ずかしがっていたけれど、モーツァルトの「トルコ行進曲」を弾いてくれました。
お兄ちゃんたちに続いて、女の子も堂々とピアノに向かい、カバレフスキーの「ジャンプ」と「ピエロ」を弾いてくれました。
西村も子どもの頃、カバレフスキーの作品が大好きでした。
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弾き初めのあと、西村も弾かせていただきました。
下のお兄ちゃんが好きな「情熱大陸」から始まって、「ノクターン」「ジャンプ」「トルコ行進曲」をメドレーで、そして「微笑みの鐘」を演奏しました。
「こんなにピアノが大好きなおうちにお嫁入りできて、ピアノは喜んでいると思うから、たくさん弾いてね」。
西村は、別れ際に3人のお子さんにそう伝えました。
すると後日、お父さんから「西村さんからいただいた言葉のとおり、みんなたくさん弾いています」というメッセージが届きました。
嬉しいです。
誰よりも、ピアノがいちばん喜んでいるでしょう。

お母さんの夢は、「子どもたちが連弾してくれること」と伺いました。
その夢、すぐに叶いますね。
あ、もしかしたら、すでにもう実現しているかもしれません。