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ピアノとピアノの音を被災地に。「Smile Piano 500」

活動の報告

2018.10.15

ピアノと音を届けに 〜福島県いわき市

とても暑くて長かった夏が終わり、ようやく本格的な秋を迎えた10月なかば、55台目のスマイルピアノをお届けしてきました。

お届け先は福島県いわき市の豊間中学校です。
豊間中学校は、かつては海沿いの風光明媚な場所にあったのですが、東日本大震災のときに津波の被害に遭い、校舎が使えなくなってしまいました。
その後しばらく、豊間小学校の校舎の一部を借りていたのですが、2017年の秋から現在の新校舎に移り、今年の3月からは新しい体育館も使えるようになりました。


その新体育館に“嫁入り”するスマイルピアノを譲ってくださったのは、千葉県にお住まいの工藤康二さんです。
昨年、奥様の真理子さんをご病気で亡くし、真理子さんが大切にしていたピアノが活かされる道を探していたところ、「Smile Piano 500」の活動を探し当ててくださったのです。
真理子さんは音楽大学で学び、本格的にピアノを演奏していらっしゃったので、愛用のピアノはとても大きな、約40年前に製作されたグランドピアノでした。
全長2メートル27センチ、重さは約400キログラム。とても素敵なピアノなのですが、このサイズとなると、置くスペースを確保できるご家庭は少ないので、お届け先を見つけるのは容易ではないと思っていました。
そんななか、スマイルピアノの活動でお世話になっている、調律師でピアノ店主の遠藤洋さんから、豊間中学校が新たなピアノを求めているというお話を伺いました。
それまで使っていたピアノは、津波による塩害から蘇り、「奇跡のピアノ」として知られるものです。


実は、この修理を手がけたのが、遠藤さんなのです。
西村も、被災地復興チャリティコンサートなどの機会で、何度か演奏したことがあります。
このピアノは、今でも中から塩が出てくるなど、メンテナンスを頻繁に行なう必要があるため、現在は遠藤さんの工房で管理されています。
遠藤さんのご尽力により、豊間中学校の皆さんにスマイルピアノを使っていただくことになりました。
遠藤さんがみずから千葉の工藤さん宅へピアノを引き取りに行き、1ヵ月以上かけて音を調整し、ピカピカに磨いてくださいました。
生徒さんたちがほほ笑む顔を見たいという気持ちが、遠藤さんを奮い立たせたそうです。

10月15日、豊間中学校の体育館でスマイルピアノの寄贈式が行われました。
納入後に再び調律を施されたピアノに初めて触れたとき、西村はその音の柔らかさに感動しました。
「あったかくて、柔らかい、やさしい性格のピアノ。色んな人の気持ちが入っている」。
それはきっと、工藤さんご夫妻のやさしさと、遠藤さんのやさしさなのでしょう。
遠藤さんの整音技術は素晴らしいと、西村は改めて思いました。
なるべく色のつかない透明感のある音を、西村自身も演奏で心がけているのですが、遠藤さんが仕上げるピアノにも、それを感じるのです。
実は、豊間中学校にスマイルピアノをお届けした前日、あるイベントで「奇跡のピアノ」を2年ぶりに弾いたのですが、音がとてもきれいになっていたのです。
「絶対に、もっといい音に進化させる!」そう熱く語る遠藤さんの心意気にふれて、西村は胸がキュンとなるのを感じました。

午後2時半から、寄贈式が始まりました。
ピアノの側面に、持ち主だった真理子さんのお名前と、この日の日付が刻まれています。
もうひとつ、西村が感銘を受けたのは、ピアノのそばに飾られた花束です。
これは、ピアノに捧げられたもので、工藤さんが遠藤さんにお願いして、地元の花屋さんに手配してもらったそうです。
「ここに来られて、よかったね」というメッセージを、花束に託したそうです。素敵ですね。
「予感」「微笑みの鐘」「ビタミン」を演奏したあと、箏曲部の皆さんと「島唄」を合奏しました。
この5人のメンバーとは、今年の3月に震災特集のドキュメンタリー番組で共演しています。
再び皆さんとコラボレーションすることができて、西村はとても嬉しかったです。
このあと生徒さん全員で校歌を歌ってもらい、ミニコンサートは無事に終了しました。

最後に、生徒さんが感想を述べてくれました。
「西村さんは、ピアノの音色で笑顔の風を届けてくれました」。
この言葉を聞いて、西村は嬉しかったのと同時に、びっくりしました。
ラジオ番組「SMILE WIND」で、毎回「今日も笑顔の風をお届けします」と言っているのです。
感想を述べてくれた男子生徒さんは、「SMILE WIND」を聴いたことがないそうなので、まったくの偶然だとわかり、「これはもう、奇跡!」と西村は思いました。

スマイルピアノは、これから豊間中学校の皆さんにたくさん弾いてもらうことで、もっともっと魅力的な、いい音になっていきます。
「届けて終わりじゃなくて、ここからが始まり」。
この日のお届けで、西村はこのことを再認識しました。
終始穏やかな表情でピアノを見守っていた工藤さんは、ピアノの嫁入りを見届けて「ほっとした」と仰っていました。
後日、メールで「こんなに清々しい気持ちになったのは、とても久しぶりです。気持ちのいい時間を過ごさせていただきました」というメッセージを伝えてくださいました。
ピアノを送り出す側にも、受け取る側にも、言葉で語りつくすことのできない、さまざまな思いやストーリーがあります。
以前の持ち主が愛情をかけて弾きこんだピアノを、ピアノを待ちわびていた新しいオーナーが受け継いで、新しい命を吹き込んでいく――。
豊間中学校の皆さん、次にお会いするときに、スマイルピアノがさらに素敵な音を奏でてくれることを、今から楽しみにしています。