Yukie Nishimura Official Website

ピアノとピアノの音を被災地に。「Smile Piano 500」

活動の報告

2017.11.02

ピアノを届けに 〜岩手県野田村〜

11月2日、岩手県九戸群野田村にお住まいのご家族のもとに、48台目のスマイルピアノをお届けしました。


この日、ご家族の4世代にわたる女性たちが迎えてくださいました。
中でも、ピアノを誰よりも待ちわびていたのは、みきこさんです。
2014年の春に再建したばかりの現在のご自宅は村の高台にありますが、かつては海沿いでご主人と「はまなす食堂」を営んでいました。
漁師でもあったご主人がみずから獲ってきた魚介類を提供していたので、どこよりも新鮮な生ウニ丼や、ホタテやカニがふんだんに盛られた磯ラーメンが名物でした。
野田村のウニは、昆布などの良質なエサを食べるので、逸品の誉れが高いのです。
昭和47年の創業以来、家族で大切に守ってきた「はまなす食堂」は、テレビで何度も紹介されました。


東日本大震災が発生したとき、みきこさんとご主人はいつものように食堂にいましたが、消防団員だったご主人は、すぐに地域住民の救助活動に向かいました。
「行ってくるよ。戸締りを頼むね」
体格が良く、柔道で鍛えていたご主人は、どこかで無事に避難しているに違いない。
みきこさんは、そう信じていました。
避難先の公民館に悲しい知らせが届いたのは、震災の翌日でした。
あの言葉が、最後になってしまったなんて――。
みきこさんはとても現実のこととして受け入れられず、悪い夢を見ているとしか思えませんでした。


ご主人だけでなく、おとうさんも、食堂で一緒に働いていたいとこも、震災で亡くしました。
さらに、一家は避難所や友人宅など別々の場所で生活することになり、そのことがとてもつらかったそうです。
数か月経ってようやく隣町の久慈にアパートを借り、一家でまとまることができるようになった、ある日のことでした。
みきこさんの三女ふみかさんが、「みんなでご飯を食べられるって、いいね」とつぶやくと、思わず全員が涙してしまったそうです。
電気製品はひとつもなく、クーラーボックスに氷を入れてしのいでいた生活でしたが、家族が一緒にいられることのありがたさを実感した瞬間でした。
津波で失った家には、みきこさんが嫁いだときに実家の福岡から運んだピアノがありました。
そのピアノで、孫たちと「ちょうちょう」などの童謡を一緒に弾くことが、なによりの楽しみでした。
ふみかさんは、そんなお母さんの幸せそうな姿をまた見たいと思い、スマイルピアノに連絡してくださったのです。
以前、テレビ岩手で放映された「ピアノで紡ぐ三陸の春」という番組を見て、スマイルピアノのことを知ったそうです。
みきこさん自身も、高台の新居での暮らしが落ち着いてきて、ピアノがある日常を取り戻したいという気持ちになっていたそうです。
みきこさんの3人の孫娘は、全員ピアノを習っています。
いちばん上のおねえちゃんは、この日は残念ながら学校の行事があってお留守だったのですが、二女と三女のふたりが、それぞれ倉木麻衣さんと秦基博さんの曲で弾き初めをしてくれました。


西村は、皆さんからのリクエストで「夢を追いかけて~薫のテーマ」を演奏しました。
曲の中盤で皆さんが泣き出してしまい、「涙がとまらないね」と言いながらお互いに顔を見合わせて笑うのを見て、スタッフも胸がいっぱいに。

「ピアノが目の前にあるなんて、夢のようです」と、みきこさんが何度も言ってくださいました。
今回ピアノを譲ってくださったのは、同じ岩手県に住むご婦人です。
そのかたにも三人の娘さんがいて、三人とも子どもの頃にピアノを弾いていたそうです。
とても素敵な偶然ですね。
スタッフが電話でご連絡したとき、「ピアノの嫁ぎ先はどこですか?」「嫁ぐ日はいつですか?」とおっしゃったことが印象的でした。
ピアノが野田村に嫁入りしたことを、「ご縁を感じる」と喜んでくださいました。
野田村は、西村とスタッフにとって、これまででもっとも遠方にあるお届け先でした。
盛岡での学校コンサートを終えてから車で向かい、その日のうちに盛岡に戻るという、土地勘がないゆえに岩手の皆さんが驚愕する強行スケジュールを組んでしまいましたが、この日もお天気に恵まれて(快晴!)、無事にお届けすることができました。
野田村の絶品海産物を味わうことができなかったことは心残りでしたが、楽しみは次回にとっておきます。

午前中にコンサートのために訪問した河北小学校の校長を務める平井先生には、2000年からお世話になっています。
震災の直後、東北の子どもたちをピアノで励ましたいと、いてもたってもいられなかった西村の気持ちを受けとめてくださり、いくつもの学校を紹介してくださったのが、平井先生なのです。
この日も、子どもたちと一緒に曲を作ったり、合唱したり、とても楽しいひとときを過ごさせていただきました。


翌日は、紫波郡にある小学校を訪ねました。
ここでもやはり、子どもたちと音楽を通じてふれあい、終演後は一緒に給食を食べました。
西村は、子どもたちのきらきらした目やフレッシュな感性に刺激されて、元気をたくさんもらいました。


「Smile Piano 500」は、たくさんの皆さまの様々なかたちでのご支援によって支えられています。
大変ありがたいことに、定期的に寄付をしてくださるかたがたもいらっしゃいます。
本来であれば、そのおひとりずつに直接お礼をお伝えしたいのですが、この場をお借りして、心から感謝の気持ちを申しあげます。
この活動を応援し、支えてくださり、ほんとうにありがとうございます。