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ピアノとピアノの音を被災地に。「Smile Piano 500」

活動の報告

2016.06.14

ピアノと音を届けに 〜宮城県石巻〜

6月14日、43台目のスマイルピアノをお届けするために、宮城県石巻市を訪ねました。
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ピアノを楽しみに待っていてくれたのは、4月に開園したばかりの「石巻たから保育園」に通う子どもたちです。
この日、園児たちと音楽を通して触れ合うことになっているので、西村もずっと前から楽しみにしていました。
同時に、ドキドキそわそわしていました。
なぜかというと、これまで小学校でのコンサートはたくさん行なってきましたが、4歳以下という小さな子どもたちだけを前にして演奏するのは、ほぼ初めての経験なのです。
 
石巻たから保育園は、社会福祉法人輝宝福祉会によって作られました。
理事長の小野崎秀通さんが住職を務める洞源院(曹洞宗)では東日本大震災のあと、津波による被害を受けた多数の住民が長期にわたって避難生活を送りました。
このとき、子どもたちは苦しい状況にあっても明るく元気に走りまわり、大人たちはその姿から生きる勇気をもらっていたそうです。
小野崎さんも、経を読むことを必要としていたのは大人たちだと思っていたけれど、「お経を唱えるとすっきりする。心が洗われる」と言うのはむしろ子どもたちだったので、「この文化を、この子たちに伝えていきたい」と思ったそうです。
 
保育園、幼稚園、そして小中学校が津波によって流されてしまった石巻市では、人口流出が続いています。
「子どもが戻らない街は崩壊してしまう」という思いから、小野崎さんたちは保育園を作ることを始め、子どもたちのお父さんやお母さんが安心して働ける環境を整備することに力を尽くしていらっしゃいます。
石巻たから保育園は、「石巻ひがし保育園」に続く2か所目です。
保育園の教育方針には、震災から得た教訓が生かされています。
そのひとつが、子どもたちに体力をつけさせることです。
避難生活では、心と体をともに強く保つことの大切さが浮き彫りになりました。
そのために、たとえば広い園庭では沼遊びができるようになっています。
しかも、あえて水溜りができるように作られているので、子どもたちは水溜まりをバシャバシャと踏みつけて泥んこになりながら、思う存分遊べるのです。
「子どもは遊びの天才なのに、大人が色々なおもちゃを与えて、その才能を奪ってしまう。だから私は保育園に遊具を置かないのです」という小野崎さんの言葉に感銘を受けました。
西村が特に感心したのは、0歳児の部屋にも小さなトイレがあることでした。
これには「どんなに小さな子どもでも、自分のことは自分でできるようになってほしい」という願いが込められています。
自立もまた、避難生活で求められるもっとも大事なことのひとつなのです。
 
この日は到着してすぐにリハーサルを行なったのですが、すでにそのときから子どもたちがピアノのまわりにたくさん集まってきました。
西村は曲ではなく、指をほぐすためにハノンの練習曲を弾いていたりしたのですが、子どもたちは音に合わせてきゃっきゃっと声を上げ始め、やがてそれが止まらなくなってしまいました。
ピアノの下にもぐりこんで、耳をふさぎながら「うるさぁぁぁ〜い!」と言っておどける女の子もいました。
 
西村は、本番が心配になってしまったのですが、驚いたことにあれほどはしゃいでいた子どもたちが、コンサートが始まると静かに耳を澄ましていたのです。
普段からCDに合わせて歌うなど、音楽に慣れ親しんでいるそうです。
コンサートには、ほかの保育園からも子どもたちが集まってくれました。
石巻たから保育園、登米市錦保育園、登米市くるみの木保育園、大崎市さくら保育園の皆さんです。
 
オリジナル曲である「風のスキップ」を弾くとき、西村は子どもたちに「風が楽しそうにスキップしているところを思い浮かべてね」と語りかけました。
そして、保育園の先生がたからのリクエストで、クラシックの小品も演奏しました。
モーツァルトの「魔笛」に続いてヨハン・シュトラウスの「ラデツキー行進曲」を演奏したときには、「音が大きくなったら強い手拍子、音が小さくなったら弱い手拍子をお願いね」と言って弾き始めると、子どもたちは固唾をのんで次に鳴る音をじーっと待ち構えていました。
子どもたちの反応が嬉しくて、西村は大きな音で弾くフリをして小さく弾くなど、フェイントをかけたりして楽しんでいました。
この音遊びはとても盛り上がり、「はい、もう終わりね」と西村が言うと、子どもたちからは「えーっ」「もっと!」の大合唱が起こりました。
最後は、保育園の園歌を小野崎さんの奥さまに、西村の伴奏に合わせて歌っていただきました。
なんと奥様は、この歌の作詞・作曲者なのです。
音楽が大好きな女の子も、途中で飛び入り参加して一緒に歌ってくれました。
 
保育園を後にした西村とスタッフは、仙台から乗ってきたレンタカーを石巻で返却し、全線が開通した仙石線の電車に乗って仙台へ戻りました。
電車で通学するという日常を取り戻した学生たちの姿を見て、西村は心からほっとしました。
一方で、真新しい復興住宅が建ち並ぶのを車窓から見ると、津波の被害がいかに甚大であったか、そして本格的な復興への道のりはまだ半ばであることを、改めて強く感じました。
 
今回のお届けは、これまで「スマイルピアノ500」で何度もご協力いただいている調律師の小田島さんのご紹介によって実現しました。
このピアノは、これからずっと石巻の子どもたちの成長を見守っていきます。
つねに子どもたちに寄り添い、美しい音を奏で、子どもたちが豊かな心を育むためのお手伝いをします。
園児のみなさん、スマイルピアノと仲良く、そして大切に使ってあげてくださいね。