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ピアノとピアノの音を被災地に。「Smile Piano 500」

活動の報告

2015.11.19

ピアノと音を届けに 〜岩手県大船渡〜

11月19日、41台目のピアノをお届けした岩手県大船渡市立大船渡中学校の体育館で、スマイルピアノコンサートが行われました。
前日まで続いた悪天候から一転、この日は清々しく晴れ渡り、風も穏やかで、海がとてもきれいに見えました。
大船渡中学校のすぐそばには、仮設住宅があります。
西村は大勢の生徒さん、先生がた、そして近くにお住まいの皆さんに音楽というビタミンをお届けすること、そしてこれまでにスマイルピアノをお届けしたご家族と再会することを、ずっと前から楽しみにしていました。
さらに今回、シンガーソングライターの八神純子さんをスペシャルゲストにお迎えするという、夢のような企画も実現しました。

今回のスマイルピアノは、都内のある場所で長く眠っていた大型のグランドピアノです。
名取孝浩さんが埼玉の工房で見事に蘇らせたあと、コンサートの1週間ほど前、一足先に届けてくださいました。
ピアノは運搬時の振動で調子が狂ってしまうと思われがちですが、実は振動よりも音に大きく影響するのは気温と湿度の変化なのです。
そこで、これまでもスマイルピアノをお届けする時は、ピアノが新しい土地の空気に触れてしばらく経ってから、改めて調律を行なってきました。
その仕上げの調律をほぼ一手に引き受けてくださっているのが、宮城県気仙沼市在住の小野寺正美さんです。
この日も、小野寺さんが朝から何時間もかけて丁寧に調整し、美しい音色に仕上げてくださいました。
お昼に西村が到着して音のチェックをし、いよいよピアノが晴れ舞台を迎える準備が整いました。

このピアノは、八神さんから託されたものでした。八神さんは何年も前から、「このピアノが再び輝ける場所を探してほしい」と持ち主から頼まれ、ずっとピアノの「嫁ぎ先」を探していました。
ある時「スマイルピアノ500」のことを知り、ぜひ被災地の皆さんのところにピアノを嫁がせたいと思ったそうです。
こうしたご縁があって、八神さんがスペシャルゲストとして出演してくださることになったのです。
スマイルピアノコンサートは、校長の金賢治先生のご挨拶で始まりました。
「皆さん、ピアノが届きました。これは、色々な人の力と支えがあって実現したものです。どうか、そのことを忘れないでください。一音ずつ、耳を澄まして心で受けとめながら聴いてください」
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西村は「前へ」を演奏したあと、これまでの活動を振り返って語り始めました。
「大船渡市へは何度も来ています。初めの頃は、とにかく学校に音を届けたい、子どもたちに聴いてほしい、少しでも元気になってもらいたい、という一心でした。当時は3つの小学校が統合し、それぞれの学校の生徒たちが一緒に授業を受けていました」
西村の言葉に、生徒さんたちが頷いていました。
小学生だった当時のことを、皆さんも思い出したのでしょう。
「当時は、車のナビに『次の橋を渡る』と指示されても、その橋が津波でなくなっているような状況で、こんな時に自分はここにいていいのだろうか、と悩みました。でも、子どもたちの笑顔を見て、『やっぱり、またここに来たい!』と思ったのです」
ピアノを習っている生徒さんに挙手をお願いすると、思った以上にたくさんの手が挙がり、しかも男の子が多かったので、西村は驚きました。
「私も習っていたけど手が小さくて、なかなかうまく弾けませんでした。でも続けてきたからこそ今日があり、皆さんに会うことができました」
西村は、「苦労して練習したからこそ愛おしい」と思えるようになったクラシックの曲を集めて、メドレーで演奏しました。
「エリーゼのために」「トルコ行進曲」、「乙女の祈り」などです。
そしていよいよ、西村が弾く「想い出のスクリーン」のイントロに合わせて、八神さんが歌いながら登場しました。
米国ロサンゼルス在住の八神さんは、2011年3月11日に一時帰国することになっていました。
子育てが一段落して歌手活動を本格的に再開するため、全国ツアーのリハーサルを予定していたのです。
東日本大震災が発生し、すべてが延期されたのですが、八神さんはすぐに飛行機の便を取り直して帰国し、被災地を支援する活動を精力的に始めました。
「私は、東北に運命を感じているんです」 大槌町の子どもたちから贈られた手紙をもとにして八神さんが作った復興応援ソング「かれ木に花を咲かせましょう」を披露したあと、「生徒さんは知らないだろうけど、みなさんの青春時代の曲を歌います!」と体育館の後ろのほうに向かって八神さんが言うと、集まっていた大人のかたがたからワーっという熱い歓声があがりました。

「みずいろの雨」と「パープルタウン」を西村の伴奏で2曲続けて歌いました。
そして、大船渡中学校の校歌を全員で歌いました。
同校はとても音楽がさかんで、生徒さんたちは歌うことが大好きです。
実は、皆さんと合唱するとしたらどの曲がよいかと西村がご相談したところ、「子どもたちは、とにかく校歌が大好きなんですよ」と、金先生が教えてくださったのです。
「ほんとうにすごい歌声でした。野太い声が素敵でした!」と八神さん。
そうなんです、男声がとても力強く響く合唱でした。

このあと、ピアノの贈呈式が行われました。
代表の生徒さんから、「こんなに貴重なピアノを譲ってくださって、ありがとうございました、大切に使っていきます」というメッセージをいただきました。
ここで閉会、のはずだったのですが、嬉しいサプライズが待っていました。
生徒さんたちが「ほらね、」(被災地を応援する合唱曲)を歌ってくれたのです。
皆さんは歌いながら移動して、八神さんと西村を囲んで大きな輪を作りました。
お花のプレゼントもいただきました。 思いがけない温かい贈り物に、八神さんと西村は大感激しました。
あとで金先生から伺ったのですが、「どうしたら、おふたりにお礼をすることができるだろうか?」と生徒さんたちが悩みながら考えた企画だったそうです。
それを聞いて、さらに感激しました。

大船渡中学校の生徒さんたちは明るくて礼儀正しくて、西村やスタッフの姿が見えると、遠くからでも「こんんにちは!」と元気に声をかけてくれました。
その姿を見ていたら、「こんなに素敵な子どもたちが支えてくれるなら、この国は安心」と西村は強く思いました。
多くのかたがたの力をお借りして生まれ変わったこのピアノを、できるだけ多くの生徒さんに弾いてほしいと願っています。
もちろん、ピアノを習っている人だけじゃなくて。
ピアノは、たくさん弾いてもらったほうが喜びます。
どうか末永く、かわいがってくださいね。

「ほらね、」 ↓
https://youtu.be/xxNCFohjGpI