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ピアノとピアノの音を被災地に。「Smile Piano 500」

活動の報告

2014.09.14

ピアノと音を届けに 〜仙台〜松島〜陸前高田〜

9月14日、2台の電子ピアノを岩手県陸前高田市の仮設住宅に住む2つのご家族のもとへお届けしました。

通常は関東から運んでくるのですが、今回は宮城県でピアノを譲り受けたその足で岩手県へ向かいました。
このようなかたちでお届けするのは、2011年5月に「スマイルピアノ500」の活動を始めて以来、初めてです。
この日はほかにも初めてのことがいくつかありました。
ピアノを譲ってくださったご家族と譲り受けたご家族のあいだで、ビデオレターを交換していただくのです。
さらに、高校生のアカペラグループ「アリガチューンズ」が同行して大所帯になったことも初の試みでした。

朝早く、大きな車を2台連ねて仙台駅前を出発し、1台目のピアノを受け取りに高須さんご一家を訪ねました。

仙台市内のマンションの上層階にあるお宅は大きな地震で殆どの食器が割れ、足の踏み場もなかったそうです。
今も壁にひびが残っていました。
リビングに置かれたピアノは、息子さんと娘さんが小さい頃に使っていたそうです。
少し前、ラジオが好きな奥さまが西村の番組「SMILE WIND〜愛ある家族へ〜」を聞いて、仮設住宅に住むご家族が電子ピアノを望んでいることを知り、「スマイルピアノ500」に連絡してくださいました。
このピアノで「ビタミン」を演奏した西村は、弾いているうちに鍵盤が柔らかくなっていくのを実感し、これから弾けば弾くほどに馴染んでいくと思いました。
ピアノの優しい音色に、奥さまに抱っこされたワンちゃんも神妙に聞き入っていました。
このあと、アリガチューンズが「上を向いて歩こう」を歌いました。
彼らは東京のインターナショナルスクールに通う高校生たちで、いつか被災地の皆さんに歌を届けたいという願いを持っていたのです。

「練習が苦しいと思わずに、音楽に寄り添うように楽しく弾いてほしいです」という高須さんの言葉をしっかりと受け止めて、ピアノをお預かりしました。
そして、陸前高田で待っているたまきちゃんに、息子さんからメッセージをいただきました。
「長く弾いていないピアノだけど、たくさん弾いてほしいです。大事にしてくださいね」


続いて、松島の今野さんをお訪ねしました。
松島は島々が防波堤の役割を果たしたため、津波による被害は甚大ではありませんでした。
今野さんのお宅のピアノは、幼稚園のときにピアノを習い始めたお嬢さんが、お祖母ちゃん(奥さまのお母さま)に買ってもらったのだそうです。
高校生になってからは合唱部に入り、歌のほうが好きになってしまった、ということでした。
車のなかで西村のラジオ番組を聞いていたご主人が「これはぜひ!」と直感的に感じ、行動しようと思い立ったのだそうです。
この日はお留守だったので、残念ながらお嬢さんには会えなかったのですが、お話しているうちにお嬢さんの名前と陸前高田でピアノを待っている女の子の名前が同じであることがわかりました。

陸前高田のあゆみちゃんは、ある報道番組で「ピアノを流された女の子」として紹介され、それを観た西村は被災地にピアノを届ける活動を思いついたのです。
「娘もぜひそういう子にあげたいと言っていたので、眠っていたピアノを弾いてもらえたら喜びます。あゆみちゃん、がんばって弾いてね。よろしくね」
奥さまの言葉に続いて、ご主人からあゆみちゃんへのビデオレターをいただきました。
「こんにちは、あゆみちゃん。今日なにかの縁があって、私の娘のあゆみからピアノが行きます。震災直後、仕事で被災地へ行き、たくさんの人の悲しい顔を見ました。このピアノでちょっとでも幸せになってくれたら、私たちも幸せです。末永く使ってください」


2台のピアノを積んで、私たちは車を走らせました。
途中、何度かナビゲーションが途切れてしまうことがあり、震災によって道や橋が分断されてしまったこと、そして今は次々と新しい道が出来ていることに気づかされました。
また、この日は三陸海岸地域で復興支援のための自転車イベント「ツール・ド・東北2014」が行われており、たくさんのサイクリストたちが私たちの横を颯爽と通り過ぎていきました。
建設現場では連休にもかかわらず作業員の人たちの姿があり、復興を急ぐ様子が窺えましたが、同時にその道のりはとても長く、これから先も多くの支援を必要としていることがわかります。
黒い雲が広がり始め、空模様が少し怪しくなってきましたが、1軒目のお宅に到着。


ここは工業団地の敷地内にある仮設住宅です。
小学6年生のたまきちゃんは書道が得意で、免状や賞状がたくさん飾ってありました。
ピアノは週に1度、近くの教室で習っています。
今まではキーボードを布団の上に置いて練習していたのだそうです。
いよいよスマイルピアノを設置することになり、アリガチューンズの男の子たちが慎重にピアノを運び入れます。
たまきちゃんとご家族の皆さんが心配そうに見守るなか、冷蔵庫の横をギリギリ通過して、ピアノは無事に収まりました。
「10月に発表会があるので、たくさん練習したいと思います。頑張ります」と、たまきちゃんは高須さんにメッセージを送りました。
ピアノを受け取った喜びでドキドキしているところへカメラを向けられて、たまきちゃんはちょっぴり恥ずかしそうでしたが、とても可愛らしい笑顔でした。
発表会ではソロと連弾で2曲弾くそうです。
たまきちゃん、これからスマイルピアノで毎日練習して、発表会に備えてくださいね。


続いて、小学校の校庭に作られた仮設住宅へ向かいました。
あゆみちゃんが外で小さなきょうだいたちと一緒に待っていました。
保育士になるという、小学生のときからの夢に向かって勉強しているあゆみちゃんは、もうすぐ学校でピアノのテストがあるそうで、「9月まで待った甲斐があって嬉しい!」と大喜び。
ピアノを譲ってくださったのが同じ名前のあゆみさんだと知って、「もっと頑張るきっかけになりました。大事にします。ほんとうにありがとうございます。このピアノでたくさん練習して、もっと上手くなるようにしたいです」。
こうして松島のあゆみさんから陸前高田のあゆみさんへと受け継がれたピアノに、西村はとても運命的なものを感じました。


ピアノの搬入を終えるまでは小降りだったのですが、体育館でミニコンサートが始まる頃になると雷が鳴り始め、雨も容赦なく屋根を強く打ちつけました。
それでも空にはうっすらと虹がかかっていたのが印象的でした。
これほど足元が悪いにもかかわらず、小さな子どもからお年寄りまで、地元のみなさんが集まってくださり、西村もアリガチューンズも、まさしく雨ニモマケズに心をこめて音楽を奏でました。
昨年の暮れにスマイルピアノをお届けした、まなちゃんとねねちゃんも演奏を披露してくれました。
2人とも、西村がびっくりするほど上達していて、いかにピアノを大切に弾いてくれているかがわかります。

食い入るように見つめながら演奏を聴いている男の子。
リズムに合わせて自然と体が動いている男性。
あゆみさんは4歳の弟を膝の上に座らせて、じっと聞き入っているようでした。
柔らかい笑顔で会場を後にしたおばあさんは、「今日はぐっすり眠れます」と言っていました。

アリガチューンズのメンバーにも、達成感と安堵の表情が浮かんでいました。
「震災のときからずっと、音楽を通して人を元気づけたいと思っていたので、それが実現してすごく嬉しい」(リーダーのオーリガさん)
「歌っているあいだ、みんなが笑顔で聞いてくれて嬉しかった」(マリーさん)
「こっちも心が溶けちゃうような素敵な笑顔を見られて、音楽の力は素晴らしいと思った」(エド君)

今回も、多くのかたがたの温かいご支援のおかげで無事に2台のスマイルピアノをお届けすることができました。
譲ってくださったピアノは、こうして被災地で新たな持ち主を得て、大切に弾いてもらっています。

「スマイルピアノ500」は、これからも一歩ずつ、着実に歩んでいきます。