Yukie Nishimura Official Website

ピアノとピアノの音を被災地に。「Smile Piano 500」

活動の報告

2013.12.07

ピアノを届けに 〜陸前高田〜大船渡〜

12月7日は、陸前高田市と大船渡市へ3台のスマイルピアノをお届けしました。

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雨や雪が少しでも落ちてくると繊細なピアノにダメージを与えてしまうので、いつも祈るような気持ちで空を見上げるのですが、この日も私たちは天候に恵まれました。
なぜかピアノをお届けするときはいつもそうなのです。無事に搬入して帰路についた途端に土砂降り、ということはあっても、ピアノを運んでいるときに雨や雪に降られたことは、これまで一度もありません。

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この日最初に伺ったのは、ねねちゃんのお宅です。
現在小学3年生のねねちゃんは、ピアノ教室に通い始めてまもなく被災し、家もピアノも津波に流されてしまいました。
つい最近まで、4畳2間の仮設住宅に両親と妹の4人で暮らしていて、ようやく高台に新築した家に引っ越したばかりです。 「できれば木目のピアノがいいな」と、ねねちゃんが話していたと聞いたものの、お届けする時期に運よく木目のピアノに出合えるとはかぎりません。
無理かもしれないと思っていたのですが、「一生使うものだから、希望を叶えてあげたい」というスタッフの熱い思いが実り、ぎりぎりのタイミングで素敵なワインレッドのピアノが見つかりました。 ピアノ教室の先生と、先生のご友人のご夫妻(ご夫妻のお宅にもスマイルピアノを2年前にお届けしました)が駆けつけてくださいました。
とても温かい雰囲気に包まれて、ねねちゃんは西村の楽曲である「すき」を演奏してくれました。 感激した西村が言いました。
「ねえ、一緒に弾こうよ」ねねちゃんの弾く「すき」に合わせて西村が伴奏。
普通は、突然他の人が加わると演奏のペースが崩れてしまうものですが、全く物怖じせずに最後まで弾ききったねねちゃんの度胸に、西村はすっかり感心してしまいました。 後日、ねねちゃんと4歳の妹がピアノにかじりついて離れないと、お母さんから嬉しいお手紙をいただきました。お姉ちゃんにならって、小さな妹もピアノのおけいこを始めることにしたそうです。

次にお届けしたのは、日頃市小学校の校長先生のお宅。
先生とは震災直後の2011年6月からお付き合いをさせていただいています。
初めてお目にかかったとき、先生は陸前高田市にある長部小学校の校長先生でした。
西村はこのとき、子どもたちにピアノでエールを贈りたくて、長部小学校を訪ねたのです。
当時はまだ大きく揺れる余震が続いていて、先生は気持ちが張りつめた状態で子どもたちを懸命に気遣っていらっしゃるようでした。
その姿が心に残っていた西村はそれから半年後、スマイルピアノを届けに再び陸前高田を訪ねた際、校長先生に会いに行きました。
今度はゆっくりとお話することができ、実は先生もピアノを持っていたのだけれど、家と一緒に流されてしまったと聞きました。 ぜひ先生のお宅にもピアノをお届けしたいと伝えると、「未来のある子どもたちを優先してほしい」と先生はしきりに遠慮して、「ピアノはいいから、主人のいれるおいしいコーヒーを飲みにきてくださいね」と言ってくださいました。 一度は海に対して憎しみを感じた先生の新居は、海がよく見えるところに建っていました。
「私たちは、やはり海から恩恵を受けて生きてきたから」と、その場所を選んだそうです。
しばらくは海を見るのも怖がっていたお孫さんも、今年の夏には海の水に触れることができるようになったそうです。

ピアノが部屋に運び込まれて落ち着くと、西村は先生のために演奏したくて、リクエストを聞きました。
すると、「西村さんとの出会いに感謝して、『出会い』をお願いします」とのことでした。
自身の楽曲を、西村は先生と出会えたことの素晴らしさをかみしめながら、心をこめて弾きました。 西村が弾き終わると、先生は私たちと初めて会ったときのことを思い出したようでした。 「せっかく来てくださったのに、あのときの私は表情が固かったのですね。でも、あれから変わりました。これからは笑顔で生きていきます」 こう語る先生の頬を涙がつたっていたけれど、その表情はとても晴れやかでした。

さて、この日最後のお届け先のことをご報告する前に、移動の合間を縫って立ち寄ったK-portについて書きたいと思います。
気仙沼市の港にオープンしたばかりの、とてもおしゃれなカフェです。
渡辺謙さんが発起人となり、地元のみなさんと作りあげたそうです。
設計を手がけたのは世界的に著名な建築家の伊東豊雄さん。
そして、三國清三さんがレシピを提供しています。周囲にはまだ仮設の建物が点在していますが、この本格的なカフェを見て、確実に復興が進んでいることを実感しました。 海の見える素敵なスペース。「いつかこのカフェで、ラジオの公開録音ができたらいいな」と、西村の夢が膨らみました。
2014年1月4日から、東北地方の6つのFM局で「西村由紀江のSMILE WIND〜愛ある家族へ〜」という番組がスタートします。
コンセプトは「東北・家族のプロジェクト」。
この番組を担当させていただくことで、被災地の方々ともっと絆を深めていきたいと、西村は願っています。

そろそろ日が暮れ始めた時刻に、小学3年生のまなかちゃんが待つお宅にピアノを届けました。
震災当時、まなかちゃんと2人のお兄ちゃんは学校からお寺などに避難しましたが、少し離れた広田半島で働いていたお母さんは帰ってこられなくなり、その日はお互いの安否を確認することができなかったそうです。
地震が起きたとき、咄嗟にしゃがみこんだお母さんは、地面が盛り上がる様子を目にしました。
外に出ると、海中にいるはずの牡蠣が電線に引っかかっています。
一体なにが起きたのか、すぐには呑み込めないほど頭が混乱していたと言います。
そんなお母さんの話を横で静かに聞いていた、今は中学生になったお兄ちゃんたちが、当時の町を撮影した写真集を持ってきて、見せてくれました。 ピアノの設置が無事に終わると、まなかちゃんが片手で一生懸命「禁じられた遊び」を演奏してくれました。
その様子を、お兄ちゃんたちが少し離れたところから見守っていて、西村はそんな2人の思いやりにあふれた姿にとても感動しました。 まなかちゃんとお兄ちゃんたちは、2011年6月に西村がこの地区の学校を回って演奏したとき、そのなかの1つの小学校に通っていました。
3人は、コンサートの終わりに「みなさん、また会いましょうね」と西村が言ったことを覚えていて、「こうしてまた会えたので嬉しい」と言ってくれました。
今回も、西村が帰り際に言いました。
「また会おうね」だから次にまた会えるのを楽しみにしています、と後日メールが届きました。

こうして3台のピアノを無事に届けることができて、「ああ、今日もお届け日和だったね」と言いながら車を走らせていると雪が降り出して、しばらくすると前が見えなくなるほど激しく降ってきました。
このあたりは、これから厳しい冬を迎えます。
次のスマイルピアノは、雪が解ける頃になったらお届けしたいと思っています。