Yukie Nishimura Official Website

ピアノとピアノの音を被災地に。「Smile Piano 500」

活動の報告

2011.06.27

音を届けに 〜福島県南相馬市〜

南相馬市へ向う
南相馬市は、福島第一原発の北の方向に位置する市です。
市の3分の2は「避難地域(立入禁止区域)」と「緊急時避難準備区域」に指定されています。
私たちは、一番北の「鹿島地区」にある「南相馬市立鹿島小学校」に向いました。

東京からは、常磐自動車道に乗ればわずか3時間余りで到着する南相馬市。
しかし福島第一原発の事故により、高速道路が閉鎖されているため、今回は、東北自動車道を使って遠回りして向いました。


途中、全村民が避難を勧告された「飯館村」を通過。
人の気配はありません。
学校に近づくと、建設中の仮設住宅がたくさん見えてきました。

5校が合同で生活する小学校
学校に着くと、元気な先生の笑顔に迎えられました。
一気に緊張が緩みます。
正直、どんな風にご挨拶するのが良いのか、悩んでいました。
笑顔でいいのか?
静かに話した方がよいのか?
先生のご対応に、私たちも元気に挨拶を返しました。

ここ、鹿島小学校には、4つの小学校(鹿島小、原町第一小、原町第三小、小高小)と1つの中学校(原町第一中学校)が同じ校舎で生活しています。
教室の数が足りないため、教室を真ん中で仕切って2クラスが授業を受けています。
特別教室や資材置き場、体育館までが、全て教室として利用されていました。
体育館の入口には、手作りの看板で「原町第一中学校」と書かれてあります。


廊下には、生徒さんが書いた絵や、全国各地から届いた励ましの手紙などが、たくさん張られていました。

コンサートで見えた子供たちの笑顔と・・・

今回は、体育館が使用できないため、学校に隣接する市営の体育館に移動してコンサートを行うことになりました。
午前中に1年生〜4年生、午後に5年生〜中学生の2回のコンサート。
ピアノを囲むように生徒さんに座ってもらい、オリジナル曲の他に、クラシックやジブリの曲、ピアノを使った「リズム遊び」では、 大声を上げ楽しそうに笑っています。

コンサートの最後に、代表の生徒さんからメッセージ。
「笑顔になることができました」という言葉に、緊張した毎日と戦っている福島の皆さんを思いました。

震災の爪痕
先生が地震当日のことをお話ししてくださいました。
大きな揺れの直後、屋上に上ると、学校に向って迫ってくる津波が見えたそうです。
危険を感じ、急いで全生徒を3階に避難させました。
津波は、学校の横を走る小さな道路まで達しました。
波が引いた後は、海から運ばれて来た漁船がいくつも残されていたそうです。

今も畑や田んぼに残る漁船。見渡すと、いくつもいくつも点在しています。
「これでもだいぶ片付いたんですよ。大きな瓦礫は自衛隊の方が全て撤去してくれました。
本当に感謝しています。」と、先生方は仰っていました。

鹿島小学校からわずか1キロ離れた小学校は、津波の被害が大きく、校舎は使用出来ない状況です。

震災と原発事故による別れ

南相馬市で学校生活を送っていた生徒の多くが、地震、津波、原発事故により、他県に転校して行ったそうです。
学校によっては、9割の生徒が、少ない学校でも、半分くらいの生徒が、住みなれた町、親しい友人との別れを余儀なくされたのです。
鹿島小学校で暮らす5校も例外ではありません。
全体で約7割の生徒が南相馬を離れて行きました。

実はこの日、テレビの取材の依頼がありました。
私たちは災害に遭われた地域の方をメディアに出すのは良くないのでは?と思い、 先生に伺いました。
その時に先生から返って来たのは、「避難で、全国にバラバラになってしまった生徒に、元気な姿を見せたいので、是非お願いします。」という言葉でした。

連続する緊張の中での生活

津波を逃れた鹿島小学校でも、福島原発事故による放射能の影響を、常に気にしながら生活しています。
実際の数値は低いものの、校庭で遊ぶ事も出来ず、窓も締め切ったままの授業です。
体育館も、移動教室も無い中での生活は、生徒はもちろん、先生方の緊張の連続を考えると、今回、コンサートに呼んで頂いた時の言葉、「一瞬でも心の解放される時間を子供たちに」との思いが、より強く、心に響きます。

コンサートの合間に、学校の周辺を見に行きました。
そこには、まだ手つかずの民家が残っていました。
家の中は津波で壊れてしまった家具と、大量の泥。
ここ南相馬にはボランティアの手もなかなか届いていないことを知りました。

コンサートの後、ご近所の方からかけられた「こんな誰も来ない所に来て頂きありがとうございました」の言葉を初めて理解した瞬間でした。

帰り際、元気に挨拶をしてくれる生徒さんを見て、またここに来ようと思いました。